ネイルがこわくなっちゃった話

 

今年、従姉妹が成人を迎えた。成人式にネイルチップを付けたいから作ってもらえないかと頼まれた。もちろん引き受けた。
私はネイリストとしてネイルサロンで働いていたが妊娠をしたときくらいに退職した。たまに自分の爪にネイルすることはあったが、人のためにやるのは久しぶりだった。最初は楽しかったが作ってる途中からこわくなった。仕事していたときの感覚でこわさを感じた。


私は技術指導に熱心なサロンに就職した。それはそれは体育会系ですごく厳しかった。中途で入ってきた経験者の人は、こんなに厳しいサロン見たことないし聞いたこともない、ここでやってければどこでもやってけるマジで と言う人ばかりなほど厳しかった。自分のスキルを上げるために自ら選んだ厳しい会社だったし毎日必死で練習もした。仕事だし成果がでなければどんだけ努力したって意味ないのはわかるが、全く優しくなかった。言い方もキツく日々怒られた。その指導は私のためを思って言っているのではなく、教えなきゃいけない立場だから教えるけど出来るようになってくれないとこっちが困るんだけど!?と言われてるようだった。
それでも私は劣等生ではなかった。得意なところは周りより早くできるようになったときもあったが、それをよく思わない先輩に嫌味を言われることもあった。
あらかたのことをクリアして下っ端グループを脱してからも定期的な技術チェックがありその度に怯えていた。怒られるのがこわかった。技術だけでなく接客やその他の業務でも常に監視されていて何かあると怒られ、ため息をつかれ、ビクビクしながら仕事をしていた。
この会社で3年以上働いているスタッフはみんな、この厳しい環境を乗り越えてきた人たちでもちろんみんな技術は相当うまかった。と共に、プライドが高くメンタルも強い人ばかりだった。逆を言えばそうでなければこの会社に残れないと思う。耐えきれず数日数週間で辞めてしまう人もざらにいた。
上の人に怒られるのが本当にこわかった。毎日目立たないように仕事して、居残りして頑張ってるアピールして、自分を守っていた。
当時も仕事つらいな、しんどいなと思いながら頑張っていたが、なにがつらくてしんどいのかその正体ははっきりわかってなかった。

 

先日久しぶりにネイルに触れてこわく思ったのはこの感覚だと思った。強迫に近いものだと思った。本当に久しぶりだったので、手が動かなくなっててびっくりしたし当時の実力が発揮できないのもすぐに実感した。そのとき咄嗟に また怒られるどうしよう に似たものを思ったのだと思う。今は辞めてしまって、あの会社にも上司にも関わることはないのに、恐怖感だけが残った。例えばお客様に施術して喜んでいただけたりとか、いい思い出もたくさんあったのにそんなことは微塵も思い出されなかった。私にとってネイルはこわいものになってしまったのかと悲しくなった。


この業界に入ったのも、本来違った目的があってそれを目指す道のりとして選んだ職場であったのに、向上心もクソもなくなった。私は疲れ切っていたしそのせいかはわからないが体調不良も続き休みのたびに病院を転々としていろんな検査をしたりもした。
元々長くいるつもりもなかったしこの会社を辞めようと決意した。会社の方針と同じだと思ってた私の目指す先は違うものになっていた。それから交渉を2ヶ月ほどしているときに妊娠が発覚し、産休育休取得も考えたが、復帰後またこの職場に戻ってくるのがこわくて辞めた。
辞めてからすぐ携帯の写真アルバムからネイルの写真やデザイン参考資料など、全てを消した。有名なネイリストさんのインスタフォローも解除した。生活からネイルを全て消した。こんなに嫌だったんだなと思い泣きながら消した。消しながら心がスッキリしていくのを感じて悲しくなった。

 

娘を産んで今はまた働く目的が変わったと思う、またいつか近い将来復職するであろうがそのときは今までと違った観点で職を探すのであろう、自分のやりたいことを優先できた唯一の時間をとても窮屈な中で過ごした。多くのことを得ることもできたが違う会社だったらとどうしても思ってしまう。

 

また、ピュアな気持ちでネイルができるようになる日が来るといいなと思う。